KV

AAAMYYY

Photo:Kana Tarumi
Text:Yukako Yajima
Stylist: Kan Fuchigami
Stylist Assistant: Lisa Asai Sora Ashida Asa Kobayashi
Hair & Make Up: Katsuyoshi Kojima(TRON)(Ryoto/Natsuki)
Hair & Make Up: Riku Murata(AAAMYYY)

――『Naked 4 Satan』、どんなEPになったとAAAMYYYさんは思っていますか?

Tempalay史上、一番時間をかけて作ることができた、非常に満足のいくEPだと思います。

――綾斗さんとのインタビューでも、やり抜いた感があるのではという話をしていました。

同じ気持ちです。

――そもそもTempalay Houseという企画で、ここを貸し切って1か月かけて制作するという企画のアイデアを聞いたとき、AAAMYYYさんはどう思いました?

楽しそうだなと思いました。初日にここへ来たら設営が完了していたんですけど、ドラムとギターのアンプがあって、向こう側がコントロールルームになっていて、今日メイクルームとして使った部屋にキーボードが全部並んでいるような感じになっていて。天井も低すぎず高すぎず、どんな鳴りがするんだろうなって思いながら入ったら、ドラムはミュートしたりして大変そうで。場所に合わせた音作りから始める感じで、入りから面白いなと思いました。太陽が入る素敵な環境で、みんな心に余裕がある感じでやっていたような気がします。

――たしかに、自然光が入るのはメンタルへの影響がデカそうですね。

めっちゃデカいですよ。気持ちが全然違いました。自然光が入るスタジオはあまりないですよね。ミックスルームだとたまにあるんですけど、録りのところは基本的に窓がないので。

――1か月間、どういう生活ペースだったんですか?

基本的に普通の社会人と同じタイム感でやろうということだったので、朝は11時とかから、夕方暗くなって少ししたら「じゃあ今日は帰りますか」という感じでお酒を飲みに行くみたいな、そういうルーティーンでした。土日は、やっている日もあったけど、基本はお休みで。

――じゃあ心身ともに健康的な制作ができた感じですか?

うん、そうですね。昔Tempalayで長野の山奥で合宿したことがあるんですけど、そのときは3日間とかで。そのときも自然の中だし、光も入るし、すごく楽しいし面白くて、それを今回は贅沢にやっている感じでした。ここは特にみんなが行き慣れた地域だったし、近くに美味しいコーヒー屋さんとかパン屋さんがあるので、ゆっくりできた感じがありましたね。

――そういうふうに制作環境を変えたことで作品に表れたいい変化とは、どんな部分だと思いますか?

とにかく時間をかけてゆっくりできたというのが、いつもと違うところでした。こうでもないああでもないと言いながら、微々たる変化も試して「あ、ちゃうな」ってなったり、一通りやってみて「やっぱり最初のテイクがよかったね」みたいになったり、そういうことをいっぱい時間を使ってできた感じですね。

――今回はポスプロにも時間をかけたと綾斗さんがおっしゃっていましたけど、そこでも微々たる変化を試しまくっていたのだろうなと想像します。

レコーディングが終わって、一回機材をはけて、この場所をポスプロ仕様にして1週間くらいやっていたんですけど……本当に微々たる音の変化すぎて。途中で子どもを連れてきたりもしたので、一回外に出て、戻ってきたら「あれ、今どこの何をやっているのだろう」って迷子になるときもあるくらい、微々たるものをじっくりやってましたね。

――AAAMYYYさんのシンセパートに関しては、今回どんな挑戦ができた手応えがありますか?

ドラムは生もありつつトリガーを使うようなアプローチがけっこうあったり、ベースはラインで録ったりしたので、シンセはあまり奥行きを持たせてもよくないし、いい音すぎてもよくないし、でも面白い音にしたいなって。綾斗のデモのシンセの音を尊重しつつ、いい塩梅にできるようなムーブを私はしたのかなと思います。

――今回、作曲に3人の名前がクレジットされるようになっているじゃないですか。それは何か意図や変化があったんですか?

綾斗がゼロイチを作っているので、今までは作曲クレジットも彼が中心になっていたんです。レコーディングをするたびに契約内容が更新されているんですけど、今回はレコーディングを始めてすぐにみんなで集まって、綾斗から「今回は作曲クレジットを3人にしようと思う。いいものを作ろう」みたいな話があって、そういったクレジットの表記になりました。

――話を聞いていると、綾斗さんから上がってくるデモは、今まで以上に固まっていたのかなと思ったんですけど。

今までも固まってはいて。『((ika))』のときから綾斗のDTMスキルが急に上がって、自分でやりたいようにできるようになって、受け取る側も綾斗の表現したいものがさらにわかりやすくなりました。

――なるほど。じゃあ、今作は3人の名前をクレジットしようって言ったのは、綾斗さんの優しさですね。

そう、めっちゃいい奴なんですよ。みんないい奴です。「(Tempalay)仲悪い事件」みたいなのがあるじゃないですか? そういうのは、人間なのであるんですけど、時とともにみんなが成長して解決したというか。大人になりました。

――人間、ずっと一緒にいると、仲良い時期もそうじゃない時期もありますもんね。

誰でもそうですよね。バンドは特にそういうことが起こって、続けていくのが難しい団体だと思うんです。でも今は非常にいい関係性になってきているんじゃないかなと私は思います。

――そうじゃないとTemapaly Houseという企画を1か月できなさそうですよね。

そうですね。『((ika))』のときだったらできなかったですね(笑)。

――変化のきっかけは何かあったんですか? それとも自然と?

何かあったかな……まあ時じゃないですか。そういうときって、周りが気をつかってくださるから、うちらも「ごめんね」みたいな感じだったりしたし。Tempalay Houseでのレコーディングが終わったあとの飲みで、綾斗と夏樹のあいだで核心を突くような場面があり、お互いにしっかりしゃべれたという話は聞きました。

――それはAAAMYYYさんの口からしか聞けない秘話ですね。仲良くなったからTempalay Houseをやれたというより、ここで1か月過ごす中で仲良くなったという言い方のほうが正しいですか?

正しいですね。変化しながら毎日が過ぎていったという感じですかね。レコーディングやポスプロのプロセスがあったからこその変化だと思います。

――それは大事な話ですね。実際の音について聞くと、まず“Magic”に関して、AAAMYYYさんはこの曲をどう受け取って、どんなアプローチをしたと言えますか。美しいエレピの音から、メルボルンらしい多文化・多国籍感が音色やフレーズで表現されている曲ですよね。

綾斗がオーストラリアに行っていたのは知っていたんですけど、詳細までは聞いてなかったので、リスナーのみなさんと同じように「こういう感じかな」みたいな気持ちで。寂しかったのかなあ、みたいな。

――綾斗さん、寂しかったとおっしゃっていました(笑)。

「ここは楽しかったんだろうなあ」とか、そういうことを妄想して私なりにアプローチしました。リードではプロフェットを使ったり、あとTempalayの元メンバーの(竹内) 祐也さんが所持していたMOOGのリトルファッティを持ってきてもらって使ったり。“Festival”のリードの音がそれで作られているので、「おかえり」っていう感じでした。ポスプロをやっているうちに、綾斗から、サンプリングしている素材のディテールとかについて全部聞いて――信号の音とか、バイバイって言ってる友達の声とか、マグパイという鳥がオーストラリアにはいっぱいいる話とか。それを聞いてポスプロのときに色味が増したような感じでしたね。

――やっぱり今回の制作では、ポスプロで全体像がかなり変わった感じですか?

そうだと思います。ほぼ全部の音を加工したんじゃないかな。もともと録っていた音の素材にエフェクトをかけたり、ボーカルエフェクターをいじって遊んだり、夏樹が持っていたElektron の Analog Rytm ADS-8 MKIIという万能な機材を通して加工したり。夏樹はめちゃくちゃ機材に詳しくて、瞬時にリクエストに答えられるのでオタクだなと思いました。

――“かみんち”は、EPの先行配信曲、及び、武道館以降一発目の曲としてこれを出してくるのがかっこいいなという印象を持っていました。シンセもかなり面白いアプローチを重ねていますよね。

たしかに。デモでシンセのフレーズが具体的に提示されているので、私なりに解釈してブラッシュアップするようなアプローチをしました。意外と自分が持っている機材や、いつも使い慣れた機材だけを使ってやりましたね。

――“Bye”はAAAMYYYさんがボーカルを取っていて、やっぱり綾斗さんのメロディをAAAMYYYさんが歌うことで出る特別な魅力ってあるなと思わせられる一曲でした。

多分、本人が歌うのは恥ずかしいんでしょうね。だから私が代わりに歌っているという節もちょこっとあると思うんですけど。私は、デモを聴いたときから優しい曲だなって思いました。「これはAAAMYYYが歌ってね」って言われたんですけど、レコーディングする日まで全然想像がつかなくて。でも歌ってみたらいい感じになりました。

――AAAMYYYさんから見て、綾斗さんが「自分で歌うのは恥ずかしい」と思うポイントって、どういうところなんだと思いますか?

本心を言っているときじゃないですか? ラスサビの〈話すべきこと話せてたかな〉とか。全然綾斗が歌ってもいいのにとは思うんですけど。

――本心ゆえの恥ずかしさなんですね。

多分ですけどね。

――今作における綾斗さんのソングライティングの変化・進化を、AAAMYYYさんはどういうふうに感じていますか?

とにかく日常生活で起きることすべてを曲にしているのではないかというくらいのスピードで曲を書いていて。Tempalayに限らず、小原綾斗とフランチャイズオーナーの曲もそうですけど、しっかりいっぱい書いてくるからめちゃくちゃすごいなと思います。ゼロイチを作るのってやっぱりすごく大変で、旅行に行ったり、いろんな人と会って飲んだり、そういうことが好きな綾斗だからこそできるのかなって思いました。このEPの曲は、何かへのアンチテーゼとかそういうものではなくて、ナチュラルな人間味とか、世界観を優しく映し出しているような印象があって、すごく好きです。

――綾斗さんにも話したんですけど、多国籍、霊界、自然界、動物界、宇宙、人間界とかを全部ないまぜにして現実を映し出すようなソングライティングが、より深化しているなと思いました。

そうですね。オーストラリアの曲(“Magic”)、“かみんち”、“動物界”とか、お土産をもらっている気持ちでデモを受け取っていました。「旅行どうだった?」って聞く前に曲がきて、想像を膨らましたりして。だからこれからも綾斗にはいっぱい旅行に行ってほしいし、いっぱい飲みに行ってほしいし、いっぱいいろんなバカをしてほしいです。

――サウンドも実験的なことをやりつつ、でもTempalayカラーというものが絶対にあって、しかもとっつきにくさがあるとかはまったくなくて。本当に、針の穴に糸を通すような作業をやられているなと思いました。

2人ともめちゃくちゃ耳がよくて、音楽がすごく好きなので、音作りへのモチベーションが非常に高いんですよね。私も発言するときはするんですけど、基本的に2人が作り出すものがすごく面白いし、新しいし、かっこよくて、2人のやり取りが深いから。一歩後ろに引いたところから一緒にやっていても、とにかく面白かったです。

――今後のTempalayのビジョンを、AAAMYYYさんはどう見ていますか?

いいものを作っていくスタンスのまま、どんどん着実にいろんな世界へ行きたいです。ずっと長く続けていきたいなって思います。

――綾斗さんからも「海外」や「ヨーロッパ」というワードが出ていました。

このあいだミーティングしたとき、綾斗はイギリスの名前ばかり挙げていましたね。『SXSW』に出たときは「海外に出たい=アメリカだ」みたいな感じがあったんですけど、今は的確に、「こういうかっこいいことをやっていきたい」というビジョンが3人に共通してあるような気がします。

――「マジでかっこよくて新しいものを作りたい」という美学こそ、何があってもブレずに、3人の根底に共通しているものですね。

そうだと思います。Tempalayの曲って、最初に聴いたときは「え?」ってなるんですけど、スルメですよね。だからずっと聴いちゃうんだと思います。

 


インタビューの様子がMOVIEでも見れます。
※Tempalay the planktonメンバー限定になります

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