KV

NATSUKI

Photo:Kana Tarumi
Text:Yukako Yajima
Stylist: Kan Fuchigami
Stylist Assistant: Lisa Asai Sora Ashida Asa Kobayashi
Hair & Make Up: Katsuyoshi Kojima(TRON)(Ryoto/Natsuki)
Hair & Make Up: Riku Murata(AAAMYYY)

――『Naked 4 Satan』、どんなEPになったと夏樹さんは思っていますか?

いっぱい時間をかけましたね。たった4曲のために……時間をかけましたねえ(笑)。その分、今までできなかったことに挑戦したり、挑戦しては違うなってなったり、色々遊べたんじゃないかなと思います。

――そもそもTempalay Houseという企画で、ここを貸し切って1か月かけて制作するという企画のアイデアを聞いたとき、夏樹さんはどう思いました?

めっちゃだるそうだなと思いました。

――だるそう?!

はい(笑)。最初は帰らずに合宿するという話を聞いていたので、それを1か月やるのはマジでしんどいなと思っていたんですけど。結果、家には帰れたし、途中で休暇の日もあったので、そこまで疲弊せずにやれたんですけど……まあ疲れましたね。

――いっぱい時間をかけたというのは、もちろんポジティブな面もありつつ、大変だったなという感覚も大きい?

8割はそうですね(笑)。

――(笑)。何が大変でした?

Tempalayの曲を作っているときは正解がないので。とりあえず全部試してみて、最終的にみんなで判断するという感じで、本当に終わりがない。いつもみたいに終わりの時間が決まっていると、そろそろ進まなきゃというところで出ている案の中から選ぶことになるんですけど、今回は時間に終わりがなかったので案を一生出し続けて、最終的には「何がいいかわからない」みたいな。何回かそういうドツボにはまった気がしますね。

――時間をかけて色々試して、結果的にいいものができたという手応えはありますか?

そうですね、いいものができたんじゃないかなとは思います。でもそれぞれの曲が全然違う方向になる可能性もあったなと思うし。もちろんみんなで時間をかけて作ったので、一旦ある程度納得はしていますけど、まだまだやれるなっていう感じもしましたね。

――ここにドラムセットを組んで録るのは、どういった大変さがありましたか?

反響が半端ないので、とにかく小さく叩きましたね。そうじゃないとボワボワの音になっちゃうので、ありえないくらい小さい音で、なんなら最初はスティックを使わないほうがいいかもくらいの感じで考えていて。結果、ミュートで音をタイトにしながら優しく叩いて録りました。いい感じに音が録れたので、「やれるな」という感じはしましたね。やれる音の幅は狭いんですけど、全然ここでも録れるものがあるなと思いました。

――1曲目の“Magic”から、ドラムの音がいいなという印象がありました。

あ、本当ですか。嬉しいです。基本的にエンジニアの奥田(泰次)さんもほとんどの時間いてくれたし、録り終わったあとのポスプロにかけられる時間もあったので。それこそ“Magic”は、キックの音とかは生の音と重ねたりしているんですけど、そのキックの音作りをみんなで10時間近くやっていたんじゃないかな。

――ひとつの曲のキックの録り方を決めるのに10時間!?

「どのキックの音がいいかな」ということをやりすぎて。いい音の正解はないので、そのときにみんなの耳でいいと思ったものが今反映されているわけですけど、他の可能性もあったと思うし。まあでも時間をかけたのでよかったと思いたいですね。

――一番音作りが大変だったのはどの曲ですか?

“かみんち”じゃないですかね。最初のほうに出てくるクラップの音も6時間くらいクラップの音を聴いて、正直「もう何でもいいわ」ってなりました(笑)。最初のブワーって音も、何パターンも録ったんですよ。あれはもともとシンセベースのブーっていう音で、それに対してエフェクトでフィルターをかけて波っぽい動きをつけているんですけど、その波の具合とか、どこの周波数が出ているのが一番気持ちいいかとか、意味のわからないことをずっとこの部屋でやってました。頭がおかしくなりそうでした。

――それは、綾斗さんが一番こだわる感じなんですか?

一応綾斗に合わせるけど、俺やAAAMYYYが「これもいいよね」ってなったものは綾斗に聴いてもらって。ただの「ブー」でもみんなの好みがあるので。「俺はこのブーがいい」「奥田さんはこのブーがいい」「綾斗はこのブーがいい」みたいな(笑)。最終判断としては、綾斗が「これが最高」ってなったらそこで終わるようにはしています。

――“かみんち”でいえば、歌のパートが終わったあとの展開も、ビートの音色含めていいですよね。

あれも一旦俺が作って、綾斗は「もうちょっと飛ばしたい」みたいになって。綾斗が求めるものに対してどんどん飛ばしていって、結果、俺的には「ここまで変態でいいのかな」って思うけど、綾斗的にはこれくらい変態な感じがいいということだったんで、じゃあそれでって(笑)。

――夏樹さん的に、一番手応えのある曲はどれですか?

“Magic”と、あと俺は“Bye”が好きですね。“Bye”は昔のTempalayっぽいというか。俺は超ゆるい宅録感が好きなので。あのドラムも相当いい感じに録れた気がしています。

――昔のTempalay感みたいなものが、夏樹さんは好きだなっていう感覚があるんですか?

結局ずっと好きですね。みんなが酒飲みながら部屋で作ってそうな音楽というか。「これOKテイクなんだ」みたいなゆるさがあるのはやっぱり好きですね。綺麗すぎる音楽が多いと思うので、ゆるい音楽は魅力的だなって思います。作り込まれすぎてない音楽のよさがあるなと。

――じゃあ逆に“かみんち”みたいに作り込んでいる系は?

“かみんち”に関してはマジで「これでいいの?」って思いながら作っていたので(笑)。いや、意味がわからなさすぎて全然好きですけど。でも聴くタイミングある? 展開が多すぎてクラブではかけられないし、かといってライブハウスでバンドセットで聴くような音楽でもないし。これどこで聴く音楽なの?っていう(笑)。

――(笑)。でもTempalayのネクストレベルを示している曲だと思いましたよ。

まあそうですね。“Magic”とかはちゃんと研磨してポップスっぽく仕上げているけど、全く研磨せずに要素をぶち込んだままなのが“かみんち”だと思うので。それをやったから他の曲にも繋がっていったかなという感じはあるので、ああいう曲が1曲あったのはいいことだと思います。

――“かみんち”を先行配信曲に選んだのは?

それもめちゃめちゃ色々話しました。5時間くらい話しましたね。これが先行配信されて、「もう無理なんだけど」ってなる人もいるかもしれないからもうちょっと安パイでいこう、とか。いやでも俺らの友達が“かみんち”を聴いたときに「こいつらやべえ」ってなってくれるんじゃね、とか。たくさんの人のことを考えると答えが出なさそうだったので、自分たちの尊敬する人たちがどう思ってくれるかを考えた結果、“かみんち”でいいでしょ、ってなりました。実際に“かみんち”を出したら意外とお客さんからも好評で、いいフックになったんじゃないかなとは思えたので、結果的によかったんじゃないでしょうか。

――Tempalayは、新しくてかっこいい音楽を表現し続けたいという気持ちが常に3人に共通してあると思うんですけど、それが発揮されているのが“かみんち”だと思いましたけどね。

そうですね。一番出ちゃってはいると思うんですけど、出すぎてもういい曲なのかどうかわからないっていう(笑)。新しいことはたしかなんですけど、「いい音楽って何?」っていう話ですよね。でも、いいってわかっているものを作るよりかは、いいかどうかわからないものを作ることのほうが大事だと思っているので、そういう意味ではいい曲です。

――いいとわかっている音楽を作るより、いいかどうかわからないものを作る。それは名言であり、Tempalayの精神性を的確に表す言葉ですね。

それをしないと、作る意味がないですよね。同じものだらけになっちゃうし。本当はみんながそこに向かってほしいですよね。自分にしか作れない音楽があると思うので、みんなそこを目指して作るべきだと思う。「この曲聴かれるらしいよ」みたいな感じで作っている人って、嫌じゃないですか。

――アーティストなら誰しもそのバランスで悩むものだと思うけど、振り切れるのがTempalayの凄さだなと思います。

恵まれていますよね。こんなに意味わからない曲でお客さんがいるんだから(笑)。

――トロピカルな“動物界”も新鮮でした。

でもこれは前のTempalayっぽい感じがあるなとも思います。もちろん進化している要素はあるんですけど。AAAMYYYが入る前の初期のTempalayの感じを今アップデートしたようなイメージがありました。それこそ最初のEPは『Instant Hawaii』という名前だったけど、そのときはAnimal Collectiveとかが好きだったので、その感じとかトロピカルっぽい要素を今の俺ら風にやってみようという感じだった気がします。

――なるほどなあ。綾斗さんとも話したんですけど、サビ終わりで展開が変わっていくのがいいですよね。

あそこも大変でした。てか全部大変だったんですよ。“Bye”だけ「このゆるさでいい」っていうのがあったのでスムーズでした(笑)。いつも時間がなくてできなかったことを、今回はどうしてできないのかを探求する時間があって。それこそ“動物界”は、綾斗的にはもっとパッと景色を変えたいけど、何がパッと変わらない要因なのかをちゃんとみんなで考えてアレンジしていったので、その分めっちゃ時間がかかりました。しかも“動物界”は音が多いんですよ。パーカッションも、スチールパンも、ディジュリドゥも、エレキベースもいるし、すっごいゴチャっとしていて。それで世界をパキッと変えるのが難しくて。音が多くなればなるほど平坦になっちゃうというか。でも俺にとってはいらない音でも、綾斗にとってはいるというのがけっこうあって。俺だったらバッサリ切っちゃうところも、綾斗的には切りたくはないけどちゃんと展開はさせたいという気持ちがあったり。それはみんなでやる難しさであり、逆に1人だったら違うものになっているけど、Tempalayだからこうなるというよさでもあると思います。

――そうやっていろんな意見を交わしながらできあがったんですね。

前だったら、時間もないし「じゃあもうそれでいいわ」みたいな感じで終わっていたんですけど。もう話し合うのもだるいくらいの感じになっていたけど、今回は、ここの場所の空気もいいですし、ケンカ腰にならずに、「じゃあそれもやってみよう」ということを繰り返して解決策を見出していく時間があったかな。それがよかったんじゃないかなと思います。

――Tempalay Houseで過ごした1か月を経て、メンバーの関係性が変わった部分もあったりしますか。

変わりましたね。綾斗と、9年ぶりくらいにサシ飲みしました。

――へえ、9年ぶり?!

サシ飲みは8、9年なかった気がします。そんな夜もあり、AAAMYYYの誕生日をここで祝ったりもして、みんなの距離感が安定したというか、いい感じの空気になったのではないでしょうか。

――9年ぶりのサシ飲みで何を話したんですか?

……いやもう酔っぱらってたんであんま覚えてないっすね。

――真面目な話もしつつ?

いやあ、してないっすね……はい(笑)。

――(笑)。

あとは、それぞれ自分の制作では出しているけどTempalayでは出してこなかった面とかが、ここで放出された感がありました。「Tempalayだったらこう」みたいなものがけっこうあるんですけど、今回は時間があったので、みんなが普段Tempalayで見せないタイプの手札も出す時間があったなと思います。

――夏樹さんのソロ作と通ずる音作りを感じたりもしてました。

本当にそうですね。普段Tempalayのレコーディングには持ってこない自分の機材を持ち込んで、「こういう音も出せるよ」みたいなことをやったら、綾斗が「それめっちゃかっこいいから使いたいんだけど」っていうことがあったり。まだ手札はあると思うので、その辺もまた時間かけながら次作を作れたらいいなと思います。

――今回の曲のテーマや歌詞について、夏樹さんはどういうふうに受け取ってますか?

やっぱり変わってない綾斗らしい部分があるなとは思いました。あと、サウンドと歌詞が一致する瞬間ってあるじゃないですか。 “Magic”の1サビ前の〈息つく間もない〉という歌詞と、忙しないサウンドがグッと合わさってサビに入る感じとか、言葉の力があるなあって思いました。

――今後も、今回のような作り方をやっていきたいですか?

俺は第2弾をやりたいなと思っていたんですけど、綾斗的にはまたスタジオでしっかり録りたいという気持ちもあるらしくて。でもこれもできるとわかったので、曲によると思います。実際スタジオのほうが濁っている部分とかが見えやすいんですよ。ミックスとかはスタジオでやったほうがどうしてもやりやすいし。そりゃスタジオのほうが音はいいんですけど、みんながふらっと来てやるノリもよかったと思うし、普段より音に対して追求できたので、スタジオで録りつつ、今回学んだ知恵をさらに入れつつ、という作品をまた作ってみたいですね。経験値がひとつ上がって、どっちもできるようになりました。

――めちゃくちゃ大変だったとおっしゃった上で、またこれをやってもいいって思えるのは、素敵じゃないですか。

そうですね。優しいですよね、俺(笑)。始まったらまたしんどいわってなるんだろうけど、今はもう1回やってもいいかなと思えています。

――今後のTempalayのビジョンを、夏樹さんはどう見ていますか?

すでに相当ありがたいんですよ。こんな音楽をやって、音楽だけで飯を食わせてもらって、ソロでも好き勝手やらせてもらって。どちらかというと3人の関係性をちゃんといい感じにキープしつつ、ただただ面白い音楽を作れる環境を維持したい。もっと面白い音楽が作れるように、ワクワクし続けられるようにする、という感じですかね。飽きたら終わりだと思うので。つまんないと思いながらやってるバンドほど意味のないことはない、というか。普通に会社で働きたくないから音楽をやっているのに会社みたいになっちゃうと、なんでやっているんだろうみたいな気持ちになるので。「半分以上遊び」みたいなテンションでやれる状態をキープしつつ、でもしっかりお金を稼ぐということができればいいんじゃないかなと思います。

――綾斗さんからは「海外」というワードが何度も出てました。

綾斗がそっちに向いているんだったら、俺はもう大歓迎です。俺はもともとイギリスとかが大好きで、そっちで音楽をやりたいと思っていたので。そもそも日本の音楽がヨーロッパとかでは全然広まってない現状があって、どうにかして風穴を開けなきゃいけないとは思うので、Tempalayがそうなれたらいいですね。今って、日本の中で頑張るしかないか、それとも海外でやるんだったら逆に日本で有名になることを捨てるっていう、完全に分断しちゃっている気がするんですけど、日本でもちゃんとリスナーをつけながら海外でも活躍できるルートができればいいなと思うので、それをTempalayの力でできたら最高だと思います。

――その可能性を信じられるくらい、今作に自信があるとも言えますか?

全然まだまだですけど……いや、まだまだってことはないな。技術力的には多分やれていて、そっちに向かえる気がします。3人の流れ的に、「海外でもやれたらいいな」くらいのマインドだったのが、ちょっとずつ「海外でやりたい」になっている感じなんですよ。もうちょっとちゃんと視野に入れれば作る曲も変わると思うし、そうなってきたら全然勝負できるんじゃないかなと思います。そういうふうになっていったら、また一層ワクワクしながら音楽を作れるんじゃないかなと思いますね。

 


インタビューの様子がMOVIEでも見れます。
※Tempalay the planktonメンバー限定になります

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